2024年読書振り返り

2024年に読んだ本の一部についてコメントしておく。読んだ端から忘れるので、今後はなんか考えたほうが良い気がする。
黒猫マイクロファンド 2024.12.31
誰でも

ジョージ・オーウェルが好きだとこれまでさんざん口にしてきたが、いったい何が好きだったのか。反語ではなく、どこが好きかうまく説明できないまま年を経てしまった気がする。川端康雄を呼んだ時には好きなところが言語化できそうな気になれたのだが、クリックを読み終えたら自信がなくなった。来年はソルニット『オーウェルの薔薇』を読もう。

- 『ジョージ・オーウェル 「人間らしさ」への讃歌』川端康雄 岩波新

- 『カタロニア讃歌』ジョージ・オーウェル 岩波文庫(再読)

- 『ジョージ・オーウェル ひとつの生き方』クリック 岩波書店

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死霊読了。長かったし最後は放り出されるような格好で終わり、いったいなんだったんだという気持ちにさせられた。相互に冗長な話をしあい、それに付き合い続ける登場人物たちはそれぞれ埴谷雄高のペルソナなのだろうか。初読時は誰が誰やらわからなくなってしまい、かなり読んでから最初に戻るなどした。埴谷雄高本人が何度も配偶者に人工妊娠中絶を強いたというエピソード(真偽は知らぬ)が想起される場面がたびたびある。映画『全身小説家』では井上光晴に焦点が当たりすぎていて気付かなかったがかなりのトンデモおじさんである。

- 『死霊』埴谷雄高 講談社文芸文庫

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リベラルについては特に、本を読んでわかった気になるも時間が経つと忘れてしまうものなり。日本で言われる「リベラル」と語義本来のリベラルとは違うと言われ、言っていることはわかるのだが紛らわしいのでもはや何か別の単語を考えてほしい。それと、新自由主義は小さな政府志向を充足するために家父長制に乗っかりコストを家庭内の相互扶助に押し付けていると理解したのだが、そんなケチくさいものに自由の名をつけないでほしい。いったい誰の自由なのか。読んだものの前者はノートでも取りつつ再読が必要だし、引き続き考えていきたい。

- 『リベラルとは何か』田中拓道 中公新書

- 『なぜリベラルは敗け続けるのか』岡田憲治 集英社

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初めてまともにアガサ・クリスティーを読んだ。どちらもフェミニズム的な読み解きができるもの(それを知って購入し積まれていたような気もする)。ドラマのポアロなどはよく観ていたのでクリスティーは好きなはずだし、これは残りの著作を読むのを先延ばししても(今更これ以上)古びないはずである。前者は心理ホラーの様相だが、とにかく最後の最後が一番恐ろしい。

- 『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 早川書房

- 『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー 早川書房

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今年はさまざまな冤罪事件が話題になったが、一部2013年に買って積まれていた村木厚子さん関連の著作を消化した。昔から変わらず、村木さんのことがあっても変わらず、そして今もそのままなんだなあ、検察。と思った。

- 『あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ』村木厚子 日本経済新聞出版

- 『私は無実です 検察と戦った厚労省官僚村木厚子の445日』今西憲之 朝日新聞出版

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柚木麻子はたくさん読んだが(たまたま読んだ『私にふさわしいホテル』『早稲女、女、男』がいずれも映画化されるというので驚いた)、実は一番強烈な読書体験は、2022年に、今英訳本が売れているという『butter』を木嶋佳苗の著作と並行読みした結果ごちゃごちゃになって恐怖が増したこと。バターたっぷりの焼き菓子を焼きたくなる危険な本でもある。

ちなみに木嶋佳苗は道民なので、東京から来た女の子がマルセイバターサンドにさほど感銘を受けた様子を見せずに「小川軒のレーズンウィッチに似てる」と言おうものならそれは不機嫌になるのである。そんなこと言われたら俺だって不機嫌になるわと思ってそこには強く共感して読んだ。柚木の話でも2024年に読んだ本でもない…

- 『butter』柚木麻子 新潮文庫

- 『礼讃』木嶋佳苗 角川書店

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2023年にレイチェル・カーソンを読む機会があり、その流れで『複合汚染』を読み返して有吉佐和子もすごいなと改めて思ったので今年は『非色』を読んだ。前半の日本の場面が終わってアメリカに場面が切り替わってからが強烈だった。観察力と、幾分紋切り型かも知れないけれども汚い本音を暴く力とがすごい。100分で名著も気になりつつ未チェックである。

- 『非色』有吉佐和子 河出文庫

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『ボヴァリー夫人』と『女の一生』を同じ年に読んでうんざりするというのをやった。変に若い頃読まなくて良かったのか、むしろ若い頃に読んでおけば…だったのか。『女の一生』は、若い女性に対する性教育の欠如(それも意図的なものだが、もちろん両親が悪いだけでなく時代的なダメさでもある)に怒りが湧く。

- 『ボヴァリー夫人』フローベール 光文社古典新訳文庫

- 『女の一生』モーパッサン 光文社古典新訳文庫

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他に今年読んだことだけメモしておくなら、全部ではないが印象的なのはこの辺。

- 『人生相談 谷川俊太郎対談集』谷川俊太郎 朝日文庫

- 『ノモンハン 責任なき戦い』田中雄一 講談社現代新書

- 『オフ・ブロードウェイ奮闘記』中谷美紀 幻冬舎文庫

- 『人を襲うクマ 遭遇事例とその生態』羽根田修 山と渓谷社

- 『告白』ルソー グーテンベルク21

- 『日本のいちばん長い日』半藤一利 文藝春秋

- 『夜を賭けて』梁石日

- 『ラザルス 世界最強の北朝鮮ハッカーグループ』ジェフ・ホワイト 草思社

- 『ババヤガの夜』王谷晶 河出文庫

- 『草の根のファシズム』吉見義明 岩波書店

- 『ルック・バック・イン・アンガー』橋口毅宏 祥伝社

- 『大都会の愛し方』パク・ヨンサン 亜紀書房

- 『隣の家の少女』ジャック・ケッチャム 扶桑社

- 『あのこは貴族』山内マリコ 集英社文庫

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来年も楽しく充実した読書生活が送れますように。記憶をマジでどうにかしよう(繰り返し)

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